まずは、愛犬の暮らし方から

都市部の室内生活が中心で、散歩は主に舗装された道なら、5〜6種が選択肢になることがあります。川辺・草地・キャンプ場・山へよく行く犬は、レプトスピラへの対策を含む8種などのワクチンを獣医師と検討しましょう。数字を大きくすることより、愛犬がかかる可能性のある病気を防ぐことが目的です。

混同しやすい大事な点

混合ワクチンに、
狂犬病予防注射は含まれません

8種や10種を打っていても、狂犬病予防注射は別に必要です。日本では、生後91日以上の犬に年1回の狂犬病予防注射を受けさせることが法律で義務付けられています。

この記事で説明する「混合ワクチンの種類・抗体検査による接種の相談」は、狂犬病の接種義務を置き換える話ではありません。持病などで接種が難しい場合は、獣医師と自治体に必要な手続きを確認してください。

「5種・6種・8種」の数字は何を表す?

混合ワクチンは、複数の感染症をまとめて予防するためのワクチンです。数字は、予防対象となる病気や病原体の種類を数えたもの。数字が大きいほど、1つの病気に対する効き目が強くなる、という意味ではありません。

種類の例含まれる予防対象の例見るポイント
5種ジステンパー、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス2型感染症、パルボウイルス感染症、パラインフルエンザ重い感染症への基本的な対策を含む組み合わせ
6種上の5種+犬コロナウイルス感染症、という製品など5種との違いは、追加される予防対象
8種上の6種+レプトスピラ2種類、という製品などレプトスピラを含むか・どの種類に対応するか

例:ビルバックの5種製品、ゾエティスの6種・8種製品の公式情報を基にした比較です。

この表は製品の組み合わせの一例です。7種・9種・10種などもあり、同じ種数でも中身が同じとは限りません。「6種だから必ずこの内容」「レプトスピラ対策には8種しかない」と覚えず、接種証明書の製品名と予防対象を確認しましょう。

うちの犬なら?生活環境別の考え方

愛犬の暮らし方獣医師と相談する方向
都市部・室内中心
散歩は主に舗装路
5〜6種が候補になることがあります。ただし、室内中心でも基本的な感染症予防は必要。近所の流行やネズミとの接触、水たまりなども確認します。
川辺・草地によく行く
キャンプ・山歩きをする
レプトスピラのリスクを考え、8種などのレプトスピラを含む製品を検討。住んでいる場所だけでなく旅行先も伝えます。
ホテル・保育園・ドッグランを使う他の犬と接する機会と、施設の必要書類を確認。「○種以上」という条件だけで決めず、獣医師にも相談します。

レプトスピラは、水や土を通じて感染することがある病気

ネズミなど感染した動物の尿で汚染された水や土に触れることで感染することがあります。腎臓や肝臓に重い障害を起こすことがあり、人にも感染する病気です。水遊びや野外活動の機会は、相談時に伝えたい情報です。

ただし、「街の室内犬ならリスクゼロ」ではありません。都市部でも感染は起こり得ます。散歩する場所の環境や、その地域での発生状況を踏まえて決めましょう。

「普段は都内の舗装路を散歩しますが、月1回キャンプへ行き、川でも遊びます。今のワクチンにレプトスピラは含まれていますか。旅行先も考えると、どの製品が合いますか?」

種数は、多ければ多いほどよいわけではない

「せっかく打つなら一番多い種類で」と考えたくなりますが、感染する可能性がとても低い病気の対策を追加しても、得られる利益が小さい場合があります。人の予防接種でも、海外渡航に合わせて行き先特有の病気への対策を検討するように、犬も暮らし方に合う内容を選びます。

予防の利益と、副反応のリスクを両方見る

ワクチンには感染症の発症や重症化を防ぐ大切な役割があります。一方、接種部位の腫れ・痛み、元気や食欲の低下などが起こることがあり、まれに強いアレルギー反応もあります。必要性が低い接種まで、念のために追加すればよいわけではありません。

「8種は必ず5種より副反応が多い」と、数字だけで断定することもできません。反応は製品の成分や犬種・体格・過去の反応などにも左右されます。少ない種数なら副反応が起きない、レプトスピラ入りは一律に危険、という意味でもありません。

以前の接種で顔が腫れた、吐いた、ひどく元気がなくなったことがあれば、次回の前に必ず伝えます。獣医師と、製品・接種時期・抗体検査の利用などを検討してください。接種後に顔の腫れ、呼吸困難、倒れるなどの症状が出たら、すぐ動物病院へ連絡します。

「コア」「ノンコア」は、必要性を分ける言葉

専門用語ですが、まずは「多くの犬で基本になる予防」と「暮らし方などに合わせて追加を考える予防」の2つ、と捉えると分かりやすくなります。

コア=基本となる予防

感染しやすさや重症化の危険などから、多くの犬で必要になる予防です。犬ではジステンパー、パルボウイルス、アデノウイルスによる病気への対策などが該当します。

ノンコア=条件に合わせて考える予防

住む地域や旅行先、他の犬と接する機会などによって必要性を判断します。「重要ではない」「打つ必要がない」という意味ではありません。

注意したいのは、レプトスピラを、世界中どこでも同じ分類にはできないこと。WSAVAの2024年ガイドラインでは、その地域で流行し、対応する適切なワクチンが使える場合は、基本的に必要な「コア」として扱います。

飼い主が分類名だけで選ぶ必要はありません。「近所や旅行先で感染する可能性があるか」「その犬に必要な予防は何か」を獣医師と確認するための考え方です。なお、5種の中身がすべてコアという意味でもありません。

抗体検査とは?「病気への備え」が残っているかを調べる採血検査

抗体は、ウイルスなどの相手を見分けて攻撃を助ける、体の中の防御役となるたんぱく質です。ワクチン接種などによって作られます。抗体検査では血液を採り、対象の病気に対する抗体がどの程度あるかを調べます。

つまり「前に打ったワクチンによる備えが、今も残っていそうか」を考える材料です。検査結果で示される抗体の量・強さの指標を「抗体価(こうたいか)」と呼びます。

抗体があれば、ワクチンは全部不要になる?

抗体が残っているからといって、混合ワクチン全体を打たなくてよいとは限りません。何の病気を調べた検査なのかが重要です。

調べる対象検査結果の考え方
ジステンパー・パルボ・アデノウイルス十分な抗体が確認できれば、獣医師がその病気への追加接種を見送る判断に使えることがあります。
レプトスピラなど同じように抗体の結果だけで予防効果を判断できるとは限りません。別に接種が必要かを相談します。

「3つの病気の抗体が十分」という結果は、8種に含まれるすべての病気への備えを確認できた、という意味ではありません。また、抗体だけが体の防御のすべてではなく、結果は検査方法や接種歴も踏まえて獣医師が判断します。

抗体が残っていても、宿泊施設を利用できるとは限らない

「医学的に追加接種が必要か」と「施設が受け入れるか」は別の話です。犬と泊まる宿やペットホテルでは、「1年以内の混合ワクチン接種証明書」を条件にする例が多く見られます。抗体検査結果で代替できる施設もありますが、すべての施設で使えるわけではありません。

施設の公式案内の例確認できる条件
プリンスホテルのペット宿泊案内宿泊に1年以内の接種証明書の提出を案内。利用するホテル・プランの詳細確認が必要です。
リロ ホテルズ&リゾーツ5種以上の混合ワクチンについて、取得後1年以内の抗体検査証明書での代替も案内しています。

施設によっては種数、接種後何日以上経過しているか、抗体検査の対象項目・有効期間、提示する書類も決まっています。予約前に、今持っている書類で利用できるかを確認しましょう。

「混合ワクチンの最終接種は○年○月で、○年○月に受けた抗体検査の証明書があります。調べた項目は○○です。この書類で宿泊できますか。ほかに必要な予防や書類はありますか?」

抗体検査で十分な免疫が確認できた場合や、副反応の経験がある場合は、施設に合わせて自己判断で追加接種せず獣医師へ相談します。代替書類を受け付ける施設を選ぶ方法もあります。抗体検査の証明書は、狂犬病予防注射の接種証明とは別です。

病院へ行く前に、これだけメモ

  • いつ・どの製品を打ったか:前回の接種証明書を持参する。
  • ふだんの散歩と旅行先:舗装路、川、草地、山、キャンプなどを具体的に伝える。
  • 過去の副反応と今の体調:症状・出た時刻・持病・治療薬を伝える。
  • 使う予定の施設:宿・ホテル・ドッグランの種数や期限の条件を見せる。

「うちの犬には何種が必要ですか?」に加えて、「その種類を選ぶ理由と、次回の接種・検査の時期を教えてください」と聞くと、納得して予防を続けやすくなります。